特集 脱炭素化のカギを握る蓄電池産業の役割と今後の注目点

特別編 TBR 産業経済調査部メンバーによる座談会

(本座談会は2023年6月15日に行っておりますが、その後8月末まで適宜情報を更新しております)

座談会メンバー
(司会)産業経済調査部長 チーフエコノミスト 福田 佳之
シニアアナリスト 川野 茉莉子
シニアアナリスト 山口 智也

福田:機関誌「経営センサー」では2023年4月号から3号連載で蓄電池をテーマとして特集レポートを作成・掲載しております。本号は、特別編として蓄電池レポートの執筆者の3名で座談会を行いたいと思います。
 この特集のきっかけは、2021年の弊社主催の講演会「TBRイノベーションウェビナー」での橘川先生の発言です。それまで私は、蓄電池普及こそ脱炭素実現の切り札と位置づけていたのですが、橘川先生は蓄電池の普及について懐疑的な姿勢を示されておられました。その理由としてサプライチェーンの問題を指摘されたのです。実際には、現時点で蓄電池の課題について4点あると考えています(図表1)。そして、こうした課題を解決するべく資源循環や次世代蓄電池開発に取り組まれています。
 本座談会では、これらの官民での取り組みについて議論しますが、その前に蓄電池、なかでもリチウムイオン電池(LIB)の基本的原理について確認したいと思います。例えば、どうして蓄電池はリチウムでないといけないのでしょうか。鉄などもっとありふれた金属を使って蓄電池を作ることはできないのでしょうか。

普及が進むLIBの長所とは

山口:リチウムは、商用ベースで利用可能な金属としては、他の金属に比べてイオン化傾向が極めて高く、かつエネルギー密度も高いことから、現状では蓄電池の電極に最適な材料です。イオン化とは化学エネルギーを電気エネルギーに変える反応を指し、イオン化傾向が高いと、電気エネルギーに変えやすいと言われています。鉄やアルミのイオン化傾向はリチウムに比べると低く、またエネルギー密度も高くありません。
 ただし、蓄電池のエネルギー密度を飛躍的に高めるために、イオン化の起点となる負極の材料としてリチウムを使用したいところですが、負極にリチウムを使うとデンドライト(複数に枝分かれした樹枝状の結晶)が発生して短絡が起きるなどの問題が生じるために、現時点においても負極材料としては実用化できていません。
 現在、実用化されたLIBは、正極材料としてリチウム化合物、負極材料としてリチウムイオンを吸蔵する黒鉛を使うことによって蓄電池の安全性と性能を両立させています。現在、LIBは家電や車載などさまざまな用途において用いられており、日本国内においても蓄電池出荷の過半数を占めている状況です。

福田 佳之(ふくだ よしゆき)
産業経済調査部長 チーフエコノミスト

早稲田大学アジア太平洋研究科博士後期課程修了、博士(学術)。
1993年、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。
経済 企画庁(現・内閣府)派遣、米国大学院留学を経て
2003年4月に東レ入社。
東レ経営研究所では内外経済分析を担当。 2019年6月から現職。

福田:LIBの基本的なメカニズムについてはこれぐらいにして、「経営センサー」2023年5月号で取り上げた蓄電池のリユース・リサイクルについて川野シニアアナリストにお伺いしたいと思います。現在の脆弱(ぜいじゃく)なサプリチェーンなどの課題に対して、使用済み蓄電池を別の用途で再利用する蓄電池のリユースや、使用済み蓄電池を原材料のレベルから回収・再生して利用するリサイクルは有効だと考えられます。それでは、蓄電池のリユースやリサイクルがいつ頃事業として成立するのでしょうか。また、それぞれの事業成立における重要な要因についてどういったものが挙げられるでしょうか。

リユース・リサイクル事業が成立するのは2030年以降

川野:現在、蓄電池リユース・リサイクルの原料となる使用済みの車載蓄電池の規模は、実需の10%程度と言われています。今後、世界的に電気自動車(EV)が普及して、初代EVからの買い替え需要に伴う廃車が本格化する2030年以降において、使用済み車載蓄電池の調達が十分な規模になってくると考えています。日本でも、EVの買い替えのタイミングは2030年頃からといわれておりますので、これらの事業成立のタイミングは2030年以降とみています。
 日本国内におけるリユースとリサイクルの事業成立の要因についてはそれぞれ異なります。まず、リユース事業については、①使用済み車載蓄電池の確保です。現在、中古車として多くの蓄電池が海外に流出しており、いかに国内で確保するかが重要です。次に、②中古蓄電池の診断技術の確立です。診断時間の短縮や低コスト化に加えて、再利用における車載以外の利用などの技術を開発しなければなりません。そして、③共通の蓄電池生産プラットフォームを構築して競合他社の使用済み車載蓄電池を扱えるようにする必要があります。例えば、日産系の車載蓄電池とトヨタ系の車載蓄電池とを混在させて再利用することはできませんので、量の確保という点で支障をきたします。

日本版「デジタル製品パスポート」(DPP)の導入が必要

川野 茉莉子(かわの まりこ)
シニアアナリスト

京都大学大学院農学研究科修了、修士(農学)。
2008年、東レ入社。樹脂部門、購買物流部門を経て、
2015年、東レ経 営研究所へ出向。2022年4月より現職。
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。

川野:リサイクルについての事業成立要因は、こちらも①使用済み車載蓄電池の回収量の拡大です。これは国内でのEVの普及がカギを握ると言ってよいですね。次に、②リサイクルは技術開発が依然として必要であり、技術開発への補助金の増額が求められます。例えば、米国エネルギー省が、蓄電池のリユース・リサイクル技術開発に総額7,000万ドル超の資金支援を行っていますので、日本でも同様の支援が必要ではないかと思います。そして、③日本版「デジタル製品パスポート」(DPP)の導入です。欧州ではDPPの導入を進めており、蓄電池の分野で「バッテリーパスポート」が先行導入されることとなっています。DPPの導入は、デジタル技術を使って、製品や部品について製造工程の情報だけでなく、含有材料や使用履歴の情報が共有され、トレーサビリティが確保されることになります。DPPが浸透すれば、製品や部品の価値や性能が適時適切に評価されこととなり、サステナビリティの向上につながります。リユース品は中古市場で流通するようになり、リサイクルでは診断などの分析コストが低下することで有効活用されるなど、リユース・リサイクルが促進されると見込まれています。私はサーキュラーエコノミーをメインの調査テーマの一つとして取り組んでいますが、足元では特にDPPがいかにサーキュラーエコノミーを促進させるという点に注目しています。

福田:蓄電池のリユース・リサイクル、とりわけリサイクルを回すに当たって、国境や国家の存在を無視するわけにはいかないという印象を持っています。また、蓄電池のリユース事業については、制約は確かにありますが、民間主導で立ち上がっていきそうな予感があります。一方、リサイクル事業については、国家による規制導入が不可欠でしょうね。
 さて、現在、いわゆる三元系のLIB、正極材としてコバルト、ニッケル、マンガンを使ったLIBが主流ですが、これらの材料はレアメタルで高価であり、またサプライチェーン制約の恐れもあるため、これらの使用を減らそうという動きがあります。例えば、エネルギー密度は低いものの、材料として安価でふんだんなリン酸鉄を使う動きが中国メーカーなどから出ています。このように、レアメタルをLIBの材料から減らしていくと、高価な材料を目当てに回すはずだった蓄電池リサイクルがうまく回っていかないのではないかという点が非常に気になっています。

リユース・リサイクルを一体化したビジネスモデルの展開に期待

川野:リサイクルは対象材料の希少性に左右されます。LIBのリサイクルでいえば、コバルト、ニッケルの含有量のおかげで一定の利益が見込め、リサイクルを回せるのだと思います。一方、リン酸鉄は安価な鉄を材料とするために採算に乗りにくい反面、技術的にはリン酸鉄の方がリサイクルしやすいとの見方もあり、仏トタルエナジーズ社や中国の新興企業が技術開発などに乗り出していると言われています。こうした技術開発によってどの程度までリサイクルコストを引き下げられるか注目ですが、その前にリン酸鉄においても、回収量を確保することが不可欠でしょう。
 また、蓄電池のリサイクルを単体で考えるのではなく、修理やリユースなども含めてパッケージとして考え、関連サービスを提供するビジネスモデルが出てきています。仏ルノー社の「リファクトリー」が代表例です。欧州を中心にこうしたビジネスモデルが展開されていくことに期待しています。

福田:「リファクトリー」のようなビジネスモデルの登場は、リサイクル単体では採算に乗らなかったとしても、修理やリユースを含めたパッケージ全体で採算を考えていくことが可能となり、結果として蓄電池リユース・リサイクルが進展していくということですね。「リファクトリー」は非常に興味深い取り組みです。

バッテリー交換などのBaaS事業は中国以外では難易度が高いか

福田:ところで、ビジネスモデル関連でいえば、バッテリー交換のようなBaaS(BaaS:Battery as a Service)事業、つまりバッテリー機能をサービスとして提供する事業、は採算に乗っていくのでしょうか。かつて、日本でも同様の事業を展開した企業があったのですが、最終的には清算されてしまいました。

川野:ご指摘の通り、2007年創業の米国発ベンチャー企業であるベタープレイス社は、バッテリー交換方式のEVを提唱し、日本国内においても実証実験を進めていましたが、2013年に経営破綻してしまいました。失敗の理由として、EVの普及自体が進まなかったことに加えて、自動車メーカー間でのバッテリーの標準化・共通化が進まなかったことなどが指摘されています。また、特にEV用バッテリー交換については、台湾で広がる電動スクーターの電池交換と比較して非常に重いため、機械での交換が必要なこと、そうした取り換える機構の標準化や安全性、ステーションの採算性なども課題に挙げられます。
 こうした課題解決に向けて、中国政府はバッテリー交換ステーションの整備への補助金や、バッテリー規格化、交換方式の統一にむけた政策支援などを進めています。加えて、今後はバッテリー交換ステーションを系統用蓄電インフラとして有効活用することなども事業化のカギを握ると考えます。こうした取り組みが進めば、バッテリー交換事業の採算は改善するとみられますが、ステーションの立地やコストといったインフラ整備の点での課題を踏まえると、EVの大規模なバッテリー交換事業は日本を含めて中国以外の国で普及するには現時点ではハードルが高いと考えています。

福田:続いて、「経営センサー」6月号で取り上げた次世代蓄電池について山口シニアアナリストにお尋ねします。LIBのさまざまな技術的制約、安全性やエネルギー密度や高コストなどを解決する次世代蓄電池の登場が待たれるところですが、視点を変えて現行のLIBはいつ頃まで使われるとお考えでしょうか。現在の高価な三元系のLIBがこれからも使われるということは考えにくいのですが、それでは既存のLIBはどういう方向に改良されていくのでしょうか。

LIBの改善は着実に進展しているものの、限界は近い

山口:現行のLIBがいつまで使われるかについては次世代蓄電池の実用時期とも関係します。2020年の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)事業原簿」によると、車載蓄電池は2030年頃には第1世代の硫化物系の全固体電池に置き換わり、2035年頃から次世代の先進硫化物系もしくは酸化物系の全固体電池と革新型蓄電池に置き換わるとしております。ただ、NEDOのシナリオのタイミングで次世代蓄電池が実際に使われるようになるのかというと正直わかりません。また、次世代蓄電池が使えるようになったとしても、用途などによってはあえて置き換える必要性がないということもあります。
 次世代蓄電池を部材で分類すると図表2 のようになります。新たなタイプの蓄電池に注目が集まりますが、現行のLIBの改良も進んでいます。部材別に見ても、正極は安価で豊富なリン酸鉄の採用はすでに進展していますが、負極についてはサプライチェーン制約やCO排出抑制の観点からグラファイト(黒鉛)からチタンやシリコンの採用が進むと見ています。あと、電解質も生産性向上やCO排出抑制を目的とした水系への置き換えや半固体化などの取り組みがあります。
 こうしたLIBの改良の方向性について重点課題について集中して取り組むというより、材料置換や生産技術開発など、一つひとつ細かく改良を積み上げて、生産性向上やCO2排出抑制などの課題について少しずつ取り組みを進めているという印象を持っています。一方、従来の課題であったエネルギー密度向上については、これまでの技術改善の積み重ねの結果、理論的限界に近づいていますので、より高いエネルギー密度を持つ次世代蓄電池が必要とされる状況にあります。

次世代蓄電池による駆逐は起こらず、新旧蓄電池の使い分けが進む

福田:先ほど「次世代電池にあえて置き換える必要性はない」と述べておられましたが、それはどういう意味でしょうか。

山口:例えば、現在市場で流通している電池をみても、依然として鉛電池やニッケル水素電池といったLIB以前に登場した電池が一定のシェアを占めており、LIBにすべて置き換わっているわけではありません。これと同じことが、LIBと次世代電池の間でも起きるとみており、費用対効果や用途などを勘案して、シェアを減らしつつもLIBが引き続き使われるのではないか、と考えています。

福田:なるほど、次世代電池が登場しても、コストや用途などによってさまざまな種類の新旧蓄電池の使い分け、つまりバッテリーミックスが生じるということですね。その次世代蓄電池ですが、本命はズバリなんだと思われますか。

安価用途限定ではナトリウムイオン電池が台頭

山口 智也(やまぐち ともや)
シニアアナリスト

2001年、立命館大学政策科学部卒、松井証券入社。
日本情報マートを経て、2018年東レ経営研究所入社。
2023年4月 から現職。
専門分野はサブカル・ゲーム・ホビー市場、
モノづくりのデジタル化・DX、水素社会。
著書に『図解即戦力 工作機械業界のしくみとビジネスが
これ1冊でしっかりわかる教科書』共著、
技術評論社(2022年6月)がある。

山口:ズバリですか(笑)。明確に絞り切れない部分がありまして、まず、安価な用途でいくと、ナトリウムイオン電池が間違いなく来ると思います。実際に、中国メーカーなどで実用化と採用の話も出ております。
 ただし、ナトリウムイオンのような非リチウムイオン電池による置き換え需要が出てきたとしても、エネルギー密度や重量の問題から鉛蓄電池やニッケル水素蓄電池のような現行のLIBの前の世代の蓄電池の置き換えにとどまるのではないか、日本でいえばよくいっても現在の蓄電池市場の半分までではないかとみています。
 となると、次世代蓄電池の本命とまで言い切れるものが出現しているのかというと、疑問です(笑)。とはいえ、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)社などが新たな技術の蓄電池を開発したとの話もありますので注意が必要です。

全固体電池は日本勢、半固体電池は欧米勢がけん引役との図式

山口:あと、日本の自動車メーカーを中心に取り組んでいる全固体電池についてコメントします。電解質の固体化については技術的に解決できていますが、実際に量産できるかというと別問題です。例えば、電極と電解質との安定した接合を長期にわたって維持しなければなりません。材料によっては製造工程の水の隔離や安全の確保も必要で、コストアップとなります。現実的には、電解質をスラリー状や粘土状にする半固体電池が採用・普及していくという可能性もあるのではないかと見ています。実際、独フォルクスワーゲン社や米テスラ社などの自動車メーカーは、全固体電池の実用化のハードルの高さを考慮して、一定の性能や安全性の向上などが期待できる半固体電池を中心に取り組んでいるという話もあります。

福田:固体電池について整理すると、半固体電池は外国自動車メーカー、全固体電池は日本の自動車メーカーという図式ですね。さて、どのように車載蓄電池の固体電池化が進んでいくか、その進捗によっては世界の自動車メーカーの勢力争いの構図が変わる可能性もあり、非常に気になるところです。

金属価格の動向に関係なく蓄電池リサイクルへの取り組みは不可避

福田:お二方から相互に質問はありませんか。

山口:リチウムの価格動向についてお伺いします。リチウムの価格が高ければ、積極的にリサイクルに取り組むでしょうし、蓄電池の脱リチウムの動きから、次世代蓄電池の一つであるナトリウムイオン電池の開発も進むでしょう。一方、リチウム価格が低下したら、初期のナトリウムイオン電池はコストパフォーマンスがよくないでしょうから、開発が止まってしまうのではないかという懸念があります。リチウム価格の変動が及ぼす、リサイクルの事業性や採算性の影響についてどのように考えていますか。

川野:ご指摘のとおりです。リチウムの価格はサプライチェーンの問題もあり、2022年に入り高水準で推移してきましたが、このまま持続していかないのではないかと思います。ただ、リサイクルは金属価格だけではなく、当局の規制の動向にも左右されます。繰り返しますが、欧州を中心にリサイクル規制の動きが明確になっていますので、関連企業は価格動向に左右されることなく蓄電池のリサイクルなどに取り組む必要があるのではないかと考えています。

次世代蓄電池とリユース・リサイクルの取り組み

川野:私からは、次世代電池のリサイクルはそもそも検討されているのかどうかお伺いします。ナトリウムイオン電池ってリサイクルできるのでしょうか。

山口:現時点では次世代蓄電池のリサイクルは検討されていないと思います。次世代蓄電池の争点の一つとして、材料の希少性を解消してコスト高を回避するという点がありますので、希少性を誘因とするリサイクルは難しくなるでしょう。したがって、法規制でリサイクルを義務づけるしかないと思います。例えば、家電リサイクル法のように、次世代蓄電池メーカーにリサイクルの義務を課し、その費用についてはユーザーがリサイクル券を購入するなどで負担するといった役割分担を行う必要があるでしょう。

川野:リユースはどうでしょうか。リユースについては、ナトリウムイオン電池が活用できるように思えます。例えばBaaSでも使われていくのではないでしょうか。どちらかというと次世代蓄電池はリユースの方向に進むのかなと思います。

山口:次世代蓄電池の中のナトリウムイオン電池は繰り返し使えると思います。しかし、次世代蓄電池の中には、寿命の短いものもあります。そのような電池は、使い終わったらリサイクルに出すしかないでしょうね。
 ですので、次世代蓄電池が主流になった時には、リサイクルをどうするのかということは、現時点から問題として認識して取り組まないといけないのではないかと思います。

無視できない米中関係の影響

福田:これまでの蓄電池特集のまとめとして本日の座談会を行ったわけですが、あらためて気づいた点を3点指摘したいと思います。
 まず、蓄電池の課題の関心の変化です。蓄電池の抱える技術的課題について、これまで課題の関心はエネルギー容量増大や長寿命化などにあったのですが、ここにきて材料の希少性の克服にも広がっています。正極材としてのリン酸鉄の採用やナトリウムイオン電池の開発は、まさにこうした課題への関心の変化によるものと言ってよいと思います。
 次に、蓄電池の課題を解決するリユース・リサイクルについて、一方では規制強化という官からの流れ、もう一方は新たなビジネスモデルの台頭という民からの流れ、という両輪があるということです。両輪がうまくかみあって蓄電池普及が進むのか、それともどちらかがブレーキを掛けるなどで蓄電池普及は紆余曲折(うよきょくせつ)となっていくのか、今後の展開が注目されます。
 最後に、本座談会ではあまり触れることができませんでしたが、中国蓄電池メーカーの存在感の大きさと米中対立の影響が挙げられます。中国蓄電池メーカーの台頭には、当局による支援の他、世界最大のEV市場の存在、中国を軸としたサプライチェーンがあるでしょう。ですが、こうした状況を米国がどこまで許すのか。少なくとも米国市場においては、中国蓄電池メーカーの存在感の増大を許さないのではないかと思われます。また、蓄電池のリユース・リサイクルの取り組みや技術的課題の関心の変化は、本を正せば、米中対立がその背景にあることを忘れてはいけないと思います。今後も米中関係の動きが蓄電池関連の取り組みに影響を及ぼすことになるでしょう。
 蓄電池が脱炭素実現において不可欠なことは言うまでもありません。今後の蓄電池市場は短期的には政策支援もあって伸びるものの、米中関係などいくつかの課題に起因する波乱材料に左右されるでしょう。中長期的には課題解決の糸口が見つかり、伸びていくと期待していますが、そのペースは当局の資源循環等に関する規制の姿勢や次世代蓄電池開発・投入の方向性や進捗等によると考えています。これらは蓄電池ビジネスにも大きく影響を与えるでしょう。引き続き、蓄電池の動向に注目していきたいと思います。本日はありがとうございました。

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